特定秘密保護法の成立に抗議し廃止を要求する声明

2014-01-10

特定秘密保護法の成立に抗議し廃止を要求する声明
基礎経済科学研究所常任理事会

特定秘密保護法が2013年12月6日に成立し、12月13日に公布された。
我々は、法案がパブリック・コメントにかけられてから、強い関心を持ってその成り行きを注視してきたが、国会で次々と深刻な疑問点が出されたにもかかわらず、また、公聴会でも反対・慎重意見が多かったにもかかわらず、十分な審議がなされないまま強引に採決されたことに深く失望し、怒りを感じた。そもそも、今の国会は、「違憲」判決が相次ぎ、「違憲無効」判決さえ出されるほど正統性に問題があり、多数といえども、正確に民意を反映しているとは言えない。そのような国会における強行採決が如何に道理を外れたものであるか誰の目にも明らかである。担当大臣の答弁にはしばしば混乱が見られ、法成立後の与党幹事長の「報道の自由」に関する法解釈にも混乱が見られた。これは、十分な準備と十分な審議がなされなかった証左であり、施行後の恣意的法解釈や恣意的運用を予想させるものである。
強行採決および施行へ向けての拙速な動きに厳重に抗議する。
この法律で、問題となる主な点のみを指摘する。(1)「特定秘密」とされる4分野およびその中味は、それ自体は一見、当然のように見える。しかし、そもそもそれらは現行法で対処可能なものであり、新たな法律を制定して厳罰をもって対処する必要のないものである。(2)国際標準を理由にするならば、最新の「ツワネ原則」(国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(2013年11月)を参照して、国家機密保持と情報公開の公益性とのバランスをとるべきである。もし、それがなされていたならば、以下に指摘するような問題は生じなかったであろうが、ほとんどなされていない。(3)何が処罰の対象かあいまいである。たとえば、市民のデモさえ、主義や主張を「強要」したと見なされれば、テロリズムと同一視され、禁圧されるおそれがあることが露呈している。(4)罪刑法定主義に反する事態が生じるのが必至である。なぜなら、秘密の指定をチェックする、政府から独立の第三者機関がなく、そのため、指定の範囲や妥当性を担保することができず、何が秘密かもわからないうちに処罰されるというおそれがあるからである。公務員や事業者だけではなく、一般私人も巻き込まれる。(5)「特定秘密」の取り扱いをする事業者に対して「適正評価」がなされることになっているが、その項目の中には、明らかに国民の思想・信条、プライバシーを脅かし、差別を助長するものがある(6)闇のごとき秘密が、公務員と国民との間の、更には公務員相互間の距離を広げ、主権者たる国民を政治から遠ざけ、民主主義の担い手である公務員を萎縮させることになる。(7)秘密の肥大化、また長期化(最長60年)により、秘密のチェックや事後検証が困難となり、国民による権力のコントロールが不可能になる。(8)漏洩の防止という名の下に監視や盗聴などの人権侵害行為が日常化し、国民は常に国家の監視の下に置かれることになる。また、密告の奨励により、国民が相互に監視し合う社会になる。(9)取材・報道の自由に関して、「配慮する」ことになっているが、このような曖昧で恩恵的な表現は、法律用語としては不適切なものであり、その適用において恣意的な運用や解釈を許すものであって、「報道の自由」が権利として保証されているとは言えない。その兆候が法律成立直後に現れたことは、すでに冒頭で指摘した通りである。(10)「報道の自由」に対する制約と同じ問題は「学問の自由」・「教育の自由」や広く「知る権利」、そして表現の自由などにも存在し、学問、教育、映画、演劇、音楽、芸能など、あらゆる文化活動だけではなく、国際交流活動にも萎縮効果が生じる。

本研究所は、「働きつつ学ぶ」ことを理念として、研究者のみならず、働きつつ学ぶ労働者や市民で構成する学術団体として活動してきた。専門分野も多岐に亘り、生活や実践とのつながりも密接である。それ故に、この法律についても法案の段階から研究会や研究大会において、さまざまな角度から検討してきた。教育研究者や歴史研究者は、戦前の歴史の中に、軍事の変わり目に秘密保護法が変わるという特徴があることを見抜き、この法案の提出はまさにそれにあたること、また、「国民の教育権」や「学問の自由」への国家統制を強めるという点で、道徳を教科にしたり、教科書の統制を強化しようとする文部科学省の動きと連動するものと見てきた。そして、従軍慰安婦に関する資料などに触れたり、それについて書いたりすることが困難になるのではないかと危惧してきた。経済学者や法学・政治学者は、原発問題も安全保障戦略と関わる限り秘密のベールに包まれるおそれがあること、また、TPP交渉への参加と政府が推進してきた東アジア地域包括的経済連携(RCEP)とが矛盾し、TPP交渉における秘密主義と秘密保護法案とが平仄を合わせていること、そして、「国家安全保障戦略」と法案が一体のものであることなどを明らかにしてきた。

 この法律は、本研究所の目的、理念およびこのような学問的営為に照らして見れば、様々な局面で「学問の自由」や市民的自由を致命的に制約するものであり、しかも法律として多くの欠陥を持つものであって、修正や運用によってもその不当性や欠陥をカバーすることが到底不可能な、憲法に反する法律であり、国際水準以下の法律であると見なさざるを得ない。もし、この法律が施行されるなら、人権の中の人権とも言うべき「国民の知る権利」があらゆる分野に亘って制限され、国民主権が回復不能な程に侵害されるであろう。よって、この法律が直ちに廃止されることを強く求めるものである。

2014年1月10日

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