「経済学分野の参照基準(原案)」に対する意見表明
日本学術会議経済学委員会 樋口美雄委員長 殿
経済学委員会経済学分野の参照基準検討分科会 岩本康志委員長 殿
基礎経済科学研究所は、創設(1968年)以来約半世紀にわたって、「勤労者とともに勤労者のための経済学を創造」すること、また「働きつつ学ぶ権利を担う経済科学の総合」をめざして、自主的な学術研究団体(学会)として活動してきました。日本学術会議に登録され、また、かつて学術会議内に設置されていた「経済理論研究連絡会」にオブザーバーとして参加していました。多数の社会人研究者、労働者研究者を輩出するとともに、『人間発達の経済学』、『日本型企業社会の構造』など30冊以上の書物を出版し、人間の成長と公平な社会の実現、地球環境が大切にされる公正な日本経済づくりのために尽力しています。
そのため、現在貴委員会が作成をされています「経済学分野の参照基準」には重大な関心を持って見守ってきました。「原案」をもとに公開シンポジウムが開催されるに当たり、また「広く意見」が求められていることに鑑み、私たちの意見を表明することといたしました。「原案」の内容には大きな問題があり、将来の日本の経済学の発展を阻み、経済学を国民から遊離されたものにする極めて危険な試みであるという意見です。この点に関しては、数百名の賛同を得て集められています「経済学分野の教育『参照基準』の是正を求める全国教員署名」や経済理論学会、進化経済学会の各要望書もまったく同じ趣旨から危惧が表明されていると思われますが、基礎経済科学研究所としては、市民フレンドリーな「市民の経済学」をめざしてこの半世紀活動してきた経緯を踏まえて、仕事や労働、生活や人生などの現場から、経済学の古典や社会思想の学説を援用して考える経済学の教育と研究の重要性を強調したいと思います。少なくともこうした経済学の学習に道を拓き、連結する参照基準でなければならないと考えます。
現在、恐慌・失業・貧困・犯罪、家庭・地域・環境の破壊、さらには震災復興などのさまざまな社会問題に苦しむ国民からみた時、「参照基準(原案)」の想定する経済学は大きな反省を迫られると言わざるを得ません。「国際基準」とされているアメリカ中心の経済学教育の定着と、それに基づく経済政策の展開が、恐慌・失業・貧困・犯罪、家庭・地域・環境の破壊などのさまざまな社会問題を生み出していると、アメリカ国民だけでなく世界の人々の多くが感じています。そして、こうした課題の解決には、そうした経済学に代わる「新しい」経済学が求められており、その発展には「マルクス経済学」を含む「政治経済学(ポリティカル・エコノミー)」ないし「社会経済学」の教育・研究は不可欠であります。こうした時に、このような「参照基準(原案)」が出されることは、国民・市民の経済学者コミュニティーへの大きな不信を招くことにしかならないでしょう。
日本学術会議のホームページには「日本学術会議は、わが国の人文・社会科学、自然科学全分野の科学者の意見をまとめ、国内外に対して発信する日本の代表機関です」と書かれています。この趣旨から今回の「参照基準」も、真に多様な経済学者の意見をまとめるものでなければなりません。1つの固定的な枠組みを強調する具体的な「カリキュラム」やキーワードの提示を含む「参照基準」には反対せざるを得ません。数多くの経済学関連研究者、いくつかの学会が表明する危惧を払拭できない現在の「原案」は根本的に書き換えられる必要があると考えます。
日本学術会議も、また研究者や学者が国民から遊離した存在であってはなりません。多くの意見に耳を傾けて、私たちの声が反映される基準の作成に向けて、要望意見を表明させていただきました。
2013年11月28日
基礎経済科学研究所常任理事会
基礎経済科学研究所
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