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有効需要 ワルラス調整の想定では、各自は「せり人」から提示された諸価格をもとに、生産物や生産要素の供給量と需要量を同時に決定する。そのとき、各自の需要量は、自分の望む供給を元手に計画される。これを「観念的(ノーショナル)」需要と言う。 しかし現実には、例えば労働者は、計画した労働供給が実現せず、失業してしまうかもしれない。その場合、現実に販売できた労働から得られた所得で、消費需要が決定し直される。このように、現実に販売できた供給にもとづいて解き直された需要のことを「有効(エフェクティブ)」需要と呼ぶ。一般には、「有効需要」とは、貨幣の裏付けを伴った需要のことと説明されるが、結果的に間違った説明ではない。 貨幣蓄蔵欲求がないかぎり、観念的総需要は観念的総供給に当然等しくなるので、完全雇用のもとで一般的過剰生産は起こらない。しかし、貨幣蓄蔵欲求があれば、観念的総需要は観念的総供給より少なくなり得るので、その場合は(特に労働供給が)販売できた分から得られた所得をもとに計画が解き直され、有効需要に合わせて総供給が決まることで均衡する。このとき、労働市場では失業を残したまま事態が落ち着くことになる。これがケインズ経済学の「有効需要の原理」である。 (松尾匡) |